読んだの記4『義太夫節浄瑠璃未翻刻作品集成 ] 信州姨拾山 (義太夫節浄瑠璃未翻刻作品集成8)』

以前フェイスブックに残した感想から転載(2017.5.16のもの)。

 

望月太郎兵衛の造形がユニーク。他の作品ではあまり見ない智者振りに説得力がある。前半で首実検を景事風に描写しているのも珍しい物語構成。

 

望月は案外常識人だったので、あらぬ期待をかけてしまった。人物で光るのは、岩橋、新八の母の姨(名はない)が気丈さや機転でかつ慈愛ある造形で個性がそれぞれ描けていると思う。畑は軍師的な智者ということだが、望月と違い智者らしさを顕している場面がないのが残念。場面構成としては、二段目の身替わりが能の「景清」を舞、囃すのに事寄せて似せ首を仕立てるという趣向。描写が秀逸だと思う。ただし善治が鳥目で岩橋が似せ鳥目というのは何か無用な紛らわしさがあると思う。三段目は文之進の父殺しの犯人が二転三転するなど推理劇的な面白さがあり飽きさせない。ただこの下手人は身を持ち崩していた頃の望月で、随分あっさり討たれてしまうのが前半の大きな器量を感じさせる言動と釣り合わぬような気がする。語りかた、演じかた次第であろうが、難しい所だと思う。

 

全体的に言えば、傑作ではないにしろ、良作であると思うし、好事家ならば一読の価値はあると思う。